サーフィンを始めたばかりの頃、海に行くと「今日はオンショアだからダメだね」や「明日はオフショアが決まるかもしれない」といった会話を耳にすることはありませんか。波の大きさやうねりの向きと同じくらい、実は「風」がサーフィンのコンディションを大きく左右する重要な要素なのです。風向き一つで、昨日まで最高の波だった場所が、翌日には全く乗れない状態になってしまうことさえあります。この記事では、サーフィン用語の基本である「オンショア」と「オフショア」の違いや、それぞれの風が波に与える影響について、初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。風を味方につけて、より多くのいい波に乗れるようになりましょう。
オンショアとオフショアの基本的な違いと見分け方

サーフィンにおいて、風は波の質(クオリティ)を決定づける最も大きな要因の一つです。まずは、よく使われる「オンショア」と「オフショア」という言葉の本来の意味と、それが実際の海でどのような現象として現れるのかを理解しましょう。言葉の意味をイメージできるようになると、海に着いてからの判断がとてもスムーズになります。
オンショアとは?(海から陸へ吹く風)
オンショア(Onshore)とは、文字通り「On(〜の上へ)」と「Shore(岸)」が組み合わさった言葉で、海から陸に向かって吹く風のことを指します。サーファーの間では「海風(うみかぜ)」と呼ばれることもあります。
この風は、沖からやってくる波の背中を押すような形で吹くため、波が崩れるタイミングが早まったり、不規則になったりする特徴があります。常に海面が風で押されている状態になるため、水面がバシャバシャと波立ちやすくなるのが大きな特徴です。
オフショアとは?(陸から海へ吹く風)
オフショア(Offshore)は、「Off(離れる)」と「Shore(岸)」で、陸から海に向かって吹く風のことです。こちらは「陸風(りくかぜ)」とも呼ばれます。
サーフィンにおいて最も好まれるのがこのオフショアです。陸から海へ向かって風が吹くことで、これから崩れようとする波の表面(フェイス)を風が撫でるように整えてくれます。また、波が崩れようとする力に対して風が逆方向から抵抗するため、波が切り立つ(ブレイクする)のを少しだけ遅らせる効果があります。
風向きによる波の見た目の変化
海に着いて最初にチェックすべきなのは、波の「面(メン)」の状態です。オンショアが吹いている時は、海全体が白波でざわついており、波の形が崩れてぐしゃぐしゃに見えることが多いでしょう。これをサーファー用語で「ジャンク」や「チョッピー」と呼びます。
一方で、オフショアが吹いている時は、波の表面がツルツルとしていて、まるでガラスのように綺麗に見えます。これを「面ツル」や「クリーン」なコンディションと呼びます。波が崩れる瞬間に、波しぶき(スプレー)が陸側に向かって綺麗に舞い上がるのが見えたら、それはオフショアのサインです。
肌で感じる風のチェック方法
視覚的な情報だけでなく、実際にビーチに立って肌で風を感じることも大切です。海に向かって立ったとき、顔に風が当たるならそれは「オンショア」です。逆に、背中から風に押されるような感覚があれば、それは「オフショア」です。
ただし、地形や建物によって風が回って吹くこともあるため、ビーチの旗のなびき方や、少し沖にいるサーファーの髪のなびき方なども合わせて観察すると、より正確に風向きを把握できるでしょう。
なぜサーファーはオフショアを好むのか?そのメカニズム

「オフショア=いい波」というのは、サーファーにとっての常識とも言える知識ですが、なぜそうなるのかを物理的な視点から少し深く掘り下げてみましょう。風と波の関係性を理解することで、理想的な波待ちのポジションや、ボードのコントロールについても新しい発見があるはずです。
波の面が整い、ライディングしやすくなる
オフショアの最大のメリットは、なんといっても波の表面(フェイス)が滑らかになることです。サーフボードは水の上を滑る乗り物ですから、滑走面である水面がデコボコしているよりも、ツルツルしている方が圧倒的にスピードが出しやすくなります。
スノーボードで例えるなら、綺麗に圧雪されたグルーミングバーンを滑るような感覚に似ています。ボードが水面で暴れることなく、自分の思った通りのラインを描きやすくなるため、初心者でもターンの練習がしやすく、上級者は高度なトリックを決めやすくなるのです。
波が崩れるのを遅らせ、チューブを生み出す
陸から海に向かって吹く風は、沖からやってくる波の進行を妨げる方向に働きます。これにより、波はなかなか崩れることができず、ギリギリまで切り立った状態を維持します。結果として、波の斜面が急になり、パワーのある波になります。
この「波が切り立つ」という現象が極まると、波のトップが前方に巻き出され、空洞ができる「チューブ(バレル)」と呼ばれる波が形成されます。サーファーが憧れるチューブライディングは、適度なオフショアが吹いていないと滅多に現れない現象なのです。
メモ:ただし、オフショアが強すぎると、波が割れにくくなりすぎてしまい、テイクオフ(波に乗る動作)が難しくなることがあります。これを「あおられる」と表現します。
テイクオフの成功率が上がる理由
初心者のうちは、波のどこから乗ればいいのか判断するのが難しいものです。しかし、オフショアの時は波の形がはっきりとするため、「ここから割れる」というピーク(頂点)が見つけやすくなります。
また、波の面が整っていることで、パドリングの際にボードが水面に張り付くように進むため、漕ぐ力が効率よく伝わります。視界もクリアで、次に来る波の状況も把握しやすいため、結果として落ち着いてテイクオフの動作に入ることができるのです。
オンショアは本当に「悪い波」なのか?練習への活用法

一般的にオンショアは嫌われがちですが、必ずしも「オンショア=サーフィンができない」というわけではありません。実は、上達を目指すサーファーにとっては、オンショアの日こそ重要な練習の機会となることがあります。ここでは、オンショアのコンディションをポジティブに捉えるための視点を紹介します。
不安定な波でバランス感覚を鍛える
オンショアの波は「ガタガタ」「ボヨボヨ」としており、乗っている最中も常にボードが跳ねようとします。このようなコンディションでライディングを続けると、無意識のうちに膝や足首を使った細かいバランス調整能力が養われます。
綺麗な波でしか練習していないと、少しでも面が荒れた時にすぐ転んでしまうサーファーになりがちです。どんな波でも乗りこなせる対応力を身につけるためには、あえてオンショアの日に海に入り、荒れた波と格闘することも非常に効果的なトレーニングになります。
パドリングの体力を強化する
オンショアの日は、風が沖から吹いてくるため、沖に出る(ゲッティングアウト)のが大変になります。常に波が押し寄せてくる感覚があり、休む暇がありません。しかし、これを「修行」と捉えれば、パドリングの持久力やドルフィンスルーの技術を向上させる絶好のチャンスです。
「今日は筋トレの日」と割り切って入水し、短時間で集中してパドリングを繰り返すことで、基礎体力の底上げが期待できます。苦労して沖に出た後の達成感も、オンショアの日ならではのものです。
エアリアルの練習には最適
これは中上級者向けの話になりますが、オンショアの風は「波の裏側からボードを持ち上げてくれる風」でもあります。そのため、波から飛び出す「エアリアル」という技の練習には、適度なオンショアが好まれることがあります。
風がボードを空中で足に押し付けてくれるサポート役を果たしてくれるため、風を利用して高く飛ぶ感覚を掴むことができます。プロサーファーの映像などを見ると、あえてオンショアの波でダイナミックな技の練習をしているシーンもよく見られます。
初心者の心構え
初心者のうちは、波の良し悪しよりも「海に入っている時間」が上達に直結します。「オンショアだから行かない」と選り好みするよりも、安全に配慮した上で、スープ(白波)での練習などを積極的に行うのがおすすめです。
サイドショアと無風(グラッシー)について

風向きには、オンショアとオフショア以外にも、横から吹く「サイドショア」や、風が全くない「無風」という状態があります。これらもサーフィンに大きな影響を与えるため、それぞれの特徴を知っておきましょう。
サイドショアの特徴と影響
サイドショアは、岸に対して真横から吹く風のことです。この風が吹くと、海面に「流れ(カレント)」が発生しやすくなります。サーフィンをしていると、気づかないうちにどんどんと横に流されてしまい、最初に入った場所から大きく離れてしまうことがあるため注意が必要です。
波質としては、風が来る側の波面は荒れ、風が抜けていく側の波面は少し整うという現象が起きます。完全に悪いわけではありませんが、常にパドリングで位置を修正し続ける必要があるため、体力を使うコンディションと言えます。
サーファーにとっての理想郷「無風(グラッシー)」
風が全く吹いていない状態、または極めて弱い風の状態を「無風」と呼びます。この時の海面は、鏡のように空や周囲の景色を反射し、非常に美しい状態になります。これをサーファー用語で「面ツル」や「グラッシー(Glassy)」と呼びます。
グラッシーな波は、どのようなレベルのサーファーにとっても最高のコンディションです。波の形が崩れることなく、自分の描きたいラインを自由に描くことができます。一日のうちで無風になる時間はごくわずかであることが多いため、この瞬間に立ち会えたらとてもラッキーです。
「クロスオフ」と「クロスオン」
風向きは単純な4方向だけでなく、斜めから吹くこともよくあります。斜めから吹くオフショアを「クロスオフショア(またはサイドオフ)」、斜めからのオンショアを「クロスオンショア(またはサイドオン)」と呼びます。
特に「クロスオフ」は、完全なオフショアよりも波の形を良くする場合があり、ポイントの地形によっては「神風」となることがあります。自分の通うポイントが、どの方角からの風に強いのかを研究するのもサーフィンの楽しみの一つです。
風向きを予測して良い波を当てるテクニック

「海に行ってみないとわからない」では、なかなかいい波には巡り会えません。現代では便利なツールや気象の知識を使うことで、ある程度風向きを予測することができます。ここでは、事前に風を読み、最高のコンディションを狙うための具体的な方法を紹介します。
天気予報アプリやサイトを活用する
今は多くのサーファーが、スマートフォンで風予報を確認してから海に向かいます。一般的な天気予報だけでなく、風に特化したアプリを使うのが常識となっています。
これらのツールを使って、「何時に風向きが変わるか」をチェックし、オフショアになる時間帯を狙って海に行くのが賢いサーファーの行動パターンです。
「海風」と「陸風」の入れ替わりを知る
アプリに頼らずとも、自然の摂理を知っていればある程度の予測ができます。基本原則として、晴れた日は「陸地は熱しやすく冷めやすい」「海は熱しにくく冷めにくい」という温度差が生まれます。
朝(夜明け〜午前中):
夜の間に冷えた陸地から、比較的暖かい海に向かって空気が流れます。つまり、朝早い時間はオフショア(陸風)になりやすいのです。サーファーが早起きなのは、この風を狙っているからです。
昼〜夕方:
太陽が昇ると陸地が急速に暖まり、上昇気流が発生します。すると、海から冷たい空気が流れ込んできます。これがオンショア(海風)です。日中になると波が荒れ始めるのは、この気温差による風の循環が原因です。
天気図の「等圧線」を見る習慣をつける
少し上級者向けになりますが、天気図の「等圧線」を見ることで、大きな風の流れを読むことができます。等圧線の間隔が狭いところは風が強く、広いところは風が弱いというのが基本です。
また、高気圧からは時計回りに風が吹き出し、低気圧には反時計回りに風が吹き込みます。このルールを覚えると、「台風がここにあるから、明日は北東の風(オンショア)が強まるな」といった予測ができるようになります。ここまでわかると、混雑を避けて風をかわす別のポイントへ移動するなど、戦略的なサーフィンが可能になります。
地形による風の影響を考慮する
同じエリアでも、湾の向きや背後にある山の有無によって、風の影響は全く異なります。例えば、南向きのビーチでは北風がオフショアになりますが、東向きのビーチでは西風がオフショアになります。
「今日は南風が強いから、南向きのメインポイントはオンショアでダメだけど、東向きのあのポイントなら風をかわしてオフショアになるかもしれない」といった推理ができるようになると、人が少なくいい波が割れている「シークレット」な状況に出会える確率がグッと上がります。
まとめ
今回は、サーフィンにおいて最も重要な要素の一つである「オンショア」と「オフショア」について詳しく解説してきました。それぞれの特徴をしっかり理解することで、波の選び方や楽しみ方が大きく変わります。
最後に、今回の記事のポイントを振り返ってみましょう。
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オンショア(海風)は、海から陸へ吹き、波を崩しやすくしますが、バランス感覚や体力を養う練習には最適です。
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オフショア(陸風)は、陸から海へ吹き、波の面を整えて綺麗なブレイクを生み出すため、サーフィンに最も適した風です。
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無風(グラッシー)は非常に稀ですが、最高のコンディションを提供してくれます。
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風の予測には、アプリだけでなく、海と陸の温度差による「海陸風」の仕組みを理解しておくと便利です。特に朝一はオフショアになりやすいゴールデンタイムです。
風は自然現象なので、サーファーがコントロールすることはできません。しかし、風向きに合わせて入るポイントを変えたり、練習の目的を変えたりすることはできます。「今日はオンショアだから」と諦めるのではなく、その風向きならではの楽しみ方を見つけることが、サーフィンを長く楽しみ、上達するための秘訣と言えるでしょう。ぜひ、次に海に行くときは、風の匂いや肌触りを意識して、波との関係を感じてみてください。



