「サーフィンをもっと自由に楽しみたいけれど、1人で海に行くのはなんだか怖い」と感じていませんか?仲間と予定が合わなかったり、自分だけのペースで練習に打ち込みたかったりと、ソロサーフィンを考えるきっかけは人それぞれです。しかし、インターネットで検索すると「危険」という言葉が目につき、不安になってしまう方も多いでしょう。
確かに自然を相手にするスポーツである以上、リスクはゼロではありません。ですが、正しい知識と準備があれば、1人でも安全に、そして充実した時間を過ごすことは十分に可能です。この記事では、1人サーフィンの具体的なリスクから、絶対に知っておくべき安全対策、そしてソロだからこそ味わえる魅力までを、初心者の方にもわかりやすく解説します。
サーフィンを1人でするのが危険と言われる主な理由

なぜ「1人でのサーフィンは危険」と強く言われるのでしょうか。それは単に「寂しいから」ではなく、命に関わる物理的なリスクが格段に上がるからです。まずは、どのような危険が潜んでいるのかを正しく理解することから始めましょう。リスクを知ることは、身を守るための第一歩です。
万が一の事故や怪我の際に救助が遅れる
サーフィン中に起こりうる最大の恐怖は、意識を失うような大怪我や溺水事故です。仲間がいれば、ワイプアウトして海面に上がってこないあなたにすぐに気づき、救助を呼んだり助けに向かったりしてくれます。しかし、1人の場合はその「目」がありません。
例えば、自分のサーフボードが跳ね返って頭に当たったり、海底の岩に激突して脳震盪を起こしたりするケースは決して珍しくありません。意識が朦朧とした状態で波に揉まれれば、ほんの数秒が生死を分けることになります。周囲に他のサーファーがいたとしても、あなたが単に波待ちをしているだけなのか、意識を失って浮いているだけなのか、遠目では判断がつかないことが多いのです。誰も異変に気づかないまま時間が経過してしまうという点が、ソロサーフィンの最も恐ろしいリスクと言えます。
カレント(離岸流)による漂流リスクへの対応
海には「カレント」または「離岸流」と呼ばれる、岸から沖へと向かう強い海水の流れが存在します。これはどんなに波が穏やかな日でも発生しており、目に見えにくい海の落とし穴です。初心者のうちは、気づかないうちにこの流れに乗ってしまい、あっという間に沖合まで流されてしまうことがあります。
仲間がいれば「流されているぞ!」と声をかけてもらったり、一緒にパドルして励まし合ったりできますが、1人の場合はすべて自分ひとりで判断し、対処しなければなりません。パドルで戻ろうとしても進まず、体力が尽きてパニックに陥る「パニック・ドローム」は、1人の時ほど起こりやすい現象です。孤独感と焦りが冷静な判断力を奪い、最悪の事態を招く原因となります。
道具の破損トラブル発生時の孤立
サーフィンに欠かせない命綱である「リーシュコード」。これが切れてしまうトラブルは、意外と頻繁に起こります。もし沖合でリーシュが切れ、ボードが岸まで流されてしまったら、あなたは身一つで泳いで帰らなければなりません。
足のつかない深い場所で、浮力のあるボードを失うことは、想像以上の恐怖と体力の消耗を伴います。特に冬場や水温が低い時期、あるいは波が高い日には、泳いで戻ることは上級者でも困難を極めます。友人がいればボードをシェアして捕まらせてもらうこともできますが、1人の場合は完全に孤立無援の状態となります。道具はメンテナンスをしていても、波のパワーや劣化で突然壊れるものだと認識しておく必要があります。
メモ:リーシュコードは消耗品です。1年以上使用しているものや、目に見える亀裂があるものは、1人で海に入る前には絶対に使用せず、新品に交換しましょう。
1人で海に入る際に発生しやすいトラブル事例

身体的な危険だけでなく、1人で行動しているからこそ巻き込まれやすいトラブルもあります。これらはサーフィンの技術とは関係なく発生するため、事前の知識と対策が不可欠です。ここでは、よくあるトラブルの事例を見ていきましょう。
車上荒らしや鍵の紛失など防犯面の不安
悲しい現実ですが、海に入っている間のサーファーの車を狙った「車上荒らし」は後を絶ちません。特に1人で来ているサーファーは、荷物の見張りがいないことが明白であるため、ターゲットにされやすい傾向があります。
また、最近の車は電子キーが主流ですが、これを隠す場所に困ることも多いでしょう。タイヤの裏やバンパーの下に鍵を隠して海に入る「隠しキー」は、窃盗団にとっては周知の事実であり、格好の餌食です。さらに、海の中で鍵を紛失してしまうトラブルも深刻です。予備の鍵を持った仲間がいれば帰宅できますが、1人の場合は携帯電話も財布も車の中という状態で、濡れたウェットスーツのまま立ち往生することになります。
ローカルルールやマナー違反による対人トラブル
サーフポイントには、その場所を大切に守ってきた地元の方々(ローカルサーファー)や、暗黙のルールが存在する場合があります。これらはガイドブックやネット情報には載っていないことも多く、知らずに入ってしまうとトラブルの原因になります。
1人で海に入ると、心細さからつい人の多い場所に近づきたくなりますが、そこが上級者専用のピーク(波が割れる場所)だった場合、「邪魔だ」と怒鳴られてしまうこともあります。また、前乗り(人の波を横取りすること)を無意識にしてしまった時、仲間がいればその場で謝罪しフォローし合うこともできますが、1人だと恐怖心から萎縮してしまい、適切な対応ができずに事態が悪化することも。コミュニケーションの不足が、不必要な摩擦を生むことがあります。
急な天候変化や体調不良への対応遅れ
海の上では、天候が急変することがよくあります。晴れていたのに突然黒い雲が広がり、雷が鳴り始めたり、突風が吹き荒れたりすることもしばしばです。夢中で波を追いかけていると、こうした空の変化に気づくのが遅れることがあります。
また、海の中では気づきにくい「脱水症状」や「低体温症」、あるいは突然足がつる「こむら返り」も危険です。1人の場合、体調の異変を感じても「せっかく来たのだからもう少し」と無理をしてしまいがちです。誰も止めてくれる人がいないため、限界を超えて海に入り続け、岸に戻れなくなるというケースも報告されています。自己管理能力が、これ以上ないほど問われるのがソロサーフィンなのです。
初心者が1人でサーフィンをするための前提条件

ここまでリスクについてお話ししてきましたが、決して「1人でサーフィンをしてはいけない」ということではありません。ただし、ソロデビューをするためには、クリアしておくべき「前提条件」があります。これらを満たしていないうちは、スクールに通うか、経験者と一緒に行くことを強くおすすめします。
パドリングで確実に沖に出て戻れる基礎体力
最も基本的な条件は、誰の助けも借りずにパドリングで沖に出て、そして確実に岸まで戻ってこられる体力があることです。「今日は調子が良いから行ける」ではなく、どのようなコンディションでも自力で帰還できる余裕が必要です。
具体的には、1〜2時間サーフィンをした後でも、全力でパドリングができるスタミナが残っているでしょうか?また、万が一カレントに流された時に、慌てずに岸と平行にパドルして流れを脱出し、そこから岸に向かって漕ぎ続けるだけの持久力があるかどうかが目安となります。自分の体力の限界を知らないまま1人で沖に出るのは、無謀な行為と言わざるをえません。
波や天候の状況を自分で判断できる知識
海に着いた瞬間、「今日の波は自分に入れるレベルか」「風向きはどう変わる予報か」「潮の満ち引きで流れはどう変わるか」を自分で判断できなければなりません。仲間がいれば「今日は危ないからやめよう」と言ってくれますが、1人の時は誰も止めてくれません。
天気図を見て、これから波が高くなるのか落ち着くのかを予測する知識も必要です。また、海面を見てカレントが発生している場所を見抜く「目」も養っておく必要があります。もし海に着いて少しでも「怖い」「波が大きい」と感じたり、海に入っている人が極端に少なかったりする場合は、勇気を持って「入らない」という判断を下せるかどうかも、重要なスキルの一つです。
チェック:海に入る前、少なくとも10分〜15分は海を観察しましょう。セットの波の大きさや入水者の動きを確認する習慣をつけることが大切です。
ボードなしでも一定時間泳げる泳力
サーフィンはボードがあるから浮いていられますが、前述の通りリーシュが切れたりボードが破損したりすれば、ただの「遊泳」になります。サーフポイントは足のつかない深さであることが多く、波も押し寄せてくる過酷な環境です。
ウェットスーツを着ていればある程度の浮力は確保できますが、波に揉まれながら泳ぐのはプールとは全く違います。クロールや平泳ぎで、落ち着いて15分以上泳ぎ続けられる程度の泳力は最低限必要です。泳ぎに自信がない方は、1人で海に行く前に、プールでのトレーニングやライフセーバーのいる海水浴場で泳ぐ練習をしておくことを強く推奨します。
ソロサーフィンを安全に楽しむための具体的な対策

リスクを理解し、基礎的な条件もクリアしたなら、あとは徹底した安全対策を行うことで、1人サーフィンを最高に楽しい時間に変えることができます。ここでは、今日からすぐに実践できる具体的なアクションプランを紹介します。
家族や知人に行き先と帰宅時間を伝えておく
最もシンプルかつ効果的な対策は、「誰かに予定を伝えておく」ことです。「〇〇海岸へ行く」「〇時までには海から上がる」「〇時には連絡する」といった情報を、家族やパートナー、あるいは友人に必ず伝えてから出かけましょう。
もし約束の時間を過ぎても連絡がない場合、その人が異変に気づいて通報してくれる可能性があります。これはいわば、陸上にいる「見えないバディ」を作ることと同じです。最近では、スマートフォンの位置情報共有アプリなどを活用するのも有効です。「面倒くさい」と思わずに、命綱だと思って必ず連絡を入れる習慣をつけてください。
ライフセーバーがいるポイントや人気の場所を選ぶ
1人の時は、「誰もいないプライベートビーチのような場所」に憧れるかもしれませんが、それは非常に危険です。できるだけ多くのサーファーが入っているポイントや、夏場であればライフセーバーが監視しているエリアを選びましょう。
周囲に人がいれば、何かトラブルがあった時に助けを求めたり、気づいてもらえたりする確率が格段に上がります。また、人が多い場所はそれだけ「サーフィンに適している安全な場所」である可能性が高いとも言えます。初心者のうちは、混雑を避けることよりも、安全を確保することを最優先に場所選びを行ってください。
緊急連絡機能付きの通信デバイスを携帯する
近年、ソロサーファーの強力な味方となっているのが、Apple Watch(セルラーモデル)などの防水スマートウォッチです。これらを身につけて海に入れば、万が一沖に流されたり怪我をして動けなくなったりした際に、海の上から直接海上保安庁(118番)や家族に電話をかけることができます。
実際に、漂流したサーファーがスマートウォッチで救助を要請し、一命を取り留めた事例も報告されています。単なる時計ではなく、緊急時のホットラインとして機能するデバイスへの投資は、ソロ活動をする上で決して高い買い物ではありません。ただし、電波状況やバッテリー残量には常に注意を払う必要があります。
目立つ色のウェットスーツやボードを選ぶ
ファッション性を重視して全身黒色のウェットスーツを選ぶサーファーが多いですが、安全面を考えると、蛍光色や明るい色のアイテムを取り入れるのが賢明です。万が一海で漂流してしまった場合、黒いウェットスーツは海の色と同化してしまい、空からの捜索ヘリや船から発見されるのが非常に困難になります。
ボードの一部に派手なカラーリングを施したり、腕や足に蛍光色のバンドを巻いたりするだけでも視認性は大きく変わります。「見つけてもらいやすくする」という工夫は、自分自身を守るための能動的な安全対策です。特に夕暮れ時などは、この色の差が生死を分けることもあります。
安全対策チェックリスト
□ 行き先と時間を家族・友人に伝えたか?
□ リーシュコードに傷や劣化はないか?
□ 体調は万全か?(寝不足・二日酔いではないか)
□ 波のサイズは自分の実力範囲内か?
□ 近くに他のサーファーがいるポイントか?
1人でサーフィンに行くことのメリットと魅力

ここまで厳しいことばかりをお伝えしてきましたが、しっかりとした対策さえ行えば、1人サーフィンには他には代えがたい素晴らしいメリットがたくさんあります。多くのサーファーがソロの魅力にハマる理由をご紹介します。
自分のペースで練習に集中できる
誰かと一緒に行くと、どうしても相手のペースに合わせたり、お喋りに夢中になったりしてしまいがちです。しかし1人であれば、海に入ってから上がるまで、すべての時間を自分の練習だけに費やすことができます。
「今日はテイクオフの足の位置だけを意識しよう」「あののセクションでターンを練習しよう」といった具体的な課題に向き合い、納得いくまでトライ&エラーを繰り返せるのはソロならではの特権です。この高い集中力こそが、上達への近道となります。実際、短期間で急激に上手くなる人は、1人で黙々と練習する時間を持っていることが多いのです。
スケジュールやポイント選びが自由自在
友人と予定を合わせようとすると、どうしても週末に限られたり、波のコンディションが良い日に行けなかったりすることがあります。しかし1人なら、「明日の朝、波が良さそうだから早起きして行こう」というような急な思いつきも即実行に移せます。
また、ポイント選びにおいても、同乗者のレベルに気を使う必要がありません。自分が入りたい波、自分が練習したい環境を自由に選ぶことができます。「今日は小波でリラックスしたい」「少しサイズのある波に挑戦したい」など、その日の気分や体調に合わせてプランを組み立てられる自由さは、ソロサーフィンの大きな醍醐味です。
海との一体感とメンタルリフレッシュ効果
海の中にたった1人で浮いている時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれる特別なひとときです。波の音、風の感触、空の色をダイレクトに感じることができ、深いリラックス効果が得られます。
誰にも気を使わず、ただ波と向き合う時間は、一種の瞑想(マインドフルネス)のような状態をもたらします。仕事のストレスや悩み事から解放され、頭の中がクリアになる感覚は、ソロサーフィンだからこそ味わえる究極の贅沢と言えるでしょう。この精神的な充足感こそが、多くの人を海へと駆り立てる理由なのです。
1人サーファーに役立つ便利アイテム

最後に、1人でサーフィンを楽しむ際に持っておくと安心・便利なアイテムをいくつかご紹介します。これらを活用することで、トラブルを未然に防ぎ、快適なサーフィンライフを送ることができます。
セキュリティーキーボックスと電波遮断ポーチ
車の鍵の管理は、ソロサーファーにとって最大の悩みの一つです。そこで活躍するのが、車に取り付けられる頑丈な「セキュリティーキーボックス(キーロッカー)」です。ダイヤル式で鍵を中に保管できるため、鍵を持って海に入る必要がありません。
ただし、最近のスマートキーは電波を発しているため、そのままボックスに入れると車のドアが開いてしまうことがあります。必ず「電波遮断ポーチ」に鍵を入れてからボックスに収納するようにしましょう。これにより、車上荒らしのリスクを大幅に減らすことができます。
ポリタンクと簡易シャワー
1人でポイントを移動する場合、必ずしもシャワー設備が整っている場所ばかりとは限りません。水を入れたポリタンクと、電動または手動の簡易シャワーを車に積んでおけば、どこでも海上がりに体を洗い流すことができます。
特に冬場はお湯を入れて保温カバーをかけておけば、海上がりに温かいお湯を浴びることができ、冷えた体を素早く温めることができます。低体温症を防ぐ意味でも、自前のシャワーセットは非常に役立つアイテムです。
波情報アプリとライブカメラ
1人で効率よく良い波を当てるためには、情報収集が欠かせません。有料の波情報アプリをスマートフォンに入れておけば、風向き、うねりの向き、潮回りなどを事前にチェックできます。
特に「ライブカメラ」の機能がついているアプリなら、リアルタイムで海の混雑状況や波の割れ方を確認できます。「行ってみたら誰もいなくて危険そうだった」という無駄足を防ぐためにも、出発前のデジタルチェックは必須です。
まとめ:サーフィンは1人だと危険も伴うが、正しい準備で最高の時間に
サーフィンを1人で楽しむことは、確かにリスクを伴います。万が一の怪我、カレントへの漂流、道具の破損など、助けを呼べない状況は常に想定しておかなければなりません。しかし、その「危険」の正体を知り、十分なスキルを身につけ、万全の対策を行うことで、リスクは最小限に抑えることができます。
誰にも邪魔されず、自分のペースで波と向き合う時間は、サーファーにとってかけがえのない財産です。集中して練習することで技術も向上し、心身ともにリフレッシュできるでしょう。
大切なのは、「1人だからこそ、臆病になること」です。決して無理をせず、少しでも不安があれば海に入らない勇気を持つこと。そして、家族への連絡や装備の点検など、当たり前の安全管理を徹底すること。これさえ守れば、ソロサーフィンはあなたのライフスタイルをより豊かで自由なものにしてくれるはずです。安全第一で、素晴らしい波との出会いを楽しんでください。


