波の上を飛ぶように滑走するスピード感や、ゆったりとした優雅なターン。そんな独特の乗り味で世界中のサーファーを魅了し続けているのが「フィッシュ」と呼ばれるサーフボードです。「今のボードに少し飽きてきた」「もっとリラックスして波に乗りたい」と感じている方にとって、フィッシュは波乗りの楽しさを再発見させてくれる素晴らしい相棒となるでしょう。
しかし、一般的なショートボードとは形も乗り方も異なるため、どのように選べばよいのか迷ってしまうことも少なくありません。この記事では、サーフボードのフィッシュについて、その特徴から歴史、失敗しない選び方、そして乗り方のコツまでを丁寧に解説していきます。フィッシュの魅力を深く知り、あなたのサーフィンライフをさらに充実させてみませんか。
サーフボードのフィッシュとは?その特徴と歴史を知ろう

サーフポイントに行くと、テール(ボードの末端)が魚の尾びれのように二股に分かれたボードを見かけることがあるはずです。それが「フィッシュ」と呼ばれるサーフボードです。まずは、このボードがどのような特徴を持ち、どのような背景で誕生したのか、基本的な知識から深めていきましょう。
魚の尾びれのような「フィッシュテール」の役割
フィッシュボードの最大の特徴は、その名前の由来にもなっている「フィッシュテール」と呼ばれる独特な形状です。テール部分が大きく切り込まれており、見た目のインパクトも抜群ですが、この形には機能的な理由がしっかりと隠されています。
この二股に分かれた形状は、波の面を捉えるレール(ボードの側面)の長さを確保しながら、テールの面積を広く取ることを可能にします。テールの面積が広いと、波のパワーを効率よく受け止めることができるため、抜群の加速力を生み出します。一方で、切り込みが入っていることで水流がスムーズに抜け、ターンをする際のきっかけ作りもしやすくなっているのです。
また、フィッシュテールにはピンテールのような鋭い切れ込みを持つものから、幅広で浅い切れ込みのものまで様々な種類があります。一般的に、切れ込みが深いほどホールド感が増し、浅くて幅が広いほどルース(滑らか)な動きになると言われています。
幅広のアウトラインが生む安定感と浮力
フィッシュボードを上から見ると、ノーズ(先端)からテールにかけて全体的に幅が広く、丸みを帯びたアウトラインをしていることに気づくでしょう。一般的なハイパフォーマンスショートボードが細く尖っているのに対し、フィッシュはずんぐりとした形状をしています。
この幅の広さは、サーファーに大きな「安定感」をもたらします。ボードの上に立った時にグラつきにくく、パドリングの際も左右に振られにくいため、リラックスして波待ちや移動ができます。さらに、ボード自体の厚みもしっかりと取られていることが多く、その分だけ「浮力」が大きくなります。
浮力が大きいということは、小さな波や力の弱い波でも推進力を得やすいということです。パワーのない小波の日でも、フィッシュボードなら驚くほど長く波に乗り続けることができるのは、この幅広のアウトラインと十分な浮力のおかげなのです。
サンディエゴで生まれたフィッシュの歴史
現在では当たり前のように見かけるフィッシュですが、その起源は1960年代後半のカリフォルニア州サンディエゴに遡ります。当時、ニーボード(正座して乗る短いボード)を楽しんでいたスティーブ・リスというサーファーが、自身のライディングスタイルに合わせてボードを改良したのが始まりと言われています。
彼は、より速く、より自由に波を滑るために、ニーボードのテールを二つに割り、幅広の形状を採用しました。この新しいデザインは、スタンディング(立って乗る)サーファーたちにも衝撃を与え、瞬く間に広がっていきました。当時のサーフィン界はロングボードからショートボードへの移行期にあたり、フィッシュはその進化の過程で重要な役割を果たしました。
特に70年代には、ジェリー・ロペスやデビッド・ヌヒワといった伝説的なサーファーたちがフィッシュに乗り、そのスタイルを確立させました。現在リバイバルブームが起きているフィッシュですが、実は半世紀以上もの長い歴史と伝統を持つ、由緒正しいデザインなのです。
フィッシュボードに乗るメリットと独特な乗り味

フィッシュを手に入れると、今まで苦戦していたコンディションが嘘のように楽しくなることがあります。ここでは、フィッシュに乗ることで得られる具体的なメリットや、一度味わうと病みつきになるその独特な乗り味について解説します。
ショートボードにはない驚異的なスピード
フィッシュボードの最大の魅力、それは何と言っても「スピード」です。多くのサーファーがフィッシュに初めて乗った瞬間に驚くのが、テイクオフした直後の加速感です。一般的なショートボードがアップスアンドダウン(細かく上下に動く動作)をして加速する必要がある場面でも、フィッシュはただ立っているだけでグングンと前に進んでいきます。
このスピードの秘密は、先述した広い表面積と、ロッカー(ボードの反り)が非常にフラット(平ら)であることにあります。ロッカーが平らであるほど、水面との接地面積が増え、水の抵抗を受けずに滑走できるのです。
・速いセクションを抜けられるようになる
・スープ(崩れた波)につかまりにくくなる
・余裕を持って次のアクションを考えられる
一度スピードに乗ってしまえば、波のフェイス(斜面)を風のように駆け抜ける快感は、他のボードでは味わえない特別な体験となるでしょう。
水面をスケートのように滑るフロー感
フィッシュの乗り味を表現する際によく使われる言葉が「フロー(Flow)」です。これは、水の上を抵抗なく滑るような、流れるような感覚のことを指します。3本のフィンが付いたトライフィン設定のボードは、しっかりと水を掴んで縦に上がる動きが得意ですが、フィッシュ(特にツインフィン)は、水の上を滑る感覚が強くなります。
この感覚は、まるで凍った湖の上をスケートで滑っているような、あるいはパウダースノーの上をスノーボードで滑走しているようなスムーズさに例えられます。ガリガリとエッジを立てて曲がるのではなく、レール全体を使って大きなラインを描くようなサーフィンになります。
このフロー感のおかげで、波のパワーゾーン(波の力が強い部分)を外してしまっても、失速することなく次のセクションへと繋いでいくことができます。力まずに波と一体化するようなリラックスしたライディングこそが、フィッシュの真骨頂と言えるでしょう。
パドリングが楽でテイクオフが早い
サーフィンにおいて「テイクオフの速さは正義」と言われることがありますが、フィッシュはこの点においても非常に優秀です。ノーズ幅が広く浮力があるため、パドリング時の安定性が高く、推進力が生まれやすくなっています。
同じ長さのショートボードと比較した場合、フィッシュの方が圧倒的に早く波をキャッチできます。波が崩れる一歩手前のうねりの段階から滑り出すことができるため、余裕を持って立ち上がることが可能です。これは初心者や、体力が落ちてきたと感じる中高年サーファーにとっても大きなメリットです。
早く立てるということは、それだけライディングできる距離が長くなり、練習量も増えることを意味します。結果として上達のスピードも早まるため、ステップアップを目指す方にもフィッシュはおすすめできる選択肢なのです。
レトロフィッシュとモダンフィッシュの違いを比較

一口に「フィッシュ」と言っても、実は大きく分けて2つのタイプが存在します。昔ながらの形状を守る「レトロフィッシュ」と、現代の技術を取り入れた「モダンフィッシュ」です。それぞれの違いを理解することで、自分のスタイルに合った一本が見つかりやすくなります。
クラシックな乗り味の「レトロフィッシュ」
レトロフィッシュは、1970年代のデザインを忠実に再現したタイプです。全体的に厚みと幅があり、レール(ボードの側面)もボリューミーなのが特徴です。素材には昔ながらの重さがあるクロスや樹脂が使われることも多く、ずっしりとした重厚感があります。
最大の特徴は、大きめの「キールフィン」と呼ばれるツインフィン(2枚フィン)がセットされていることと、左右のフィンの間にある深い「ディープスワローテール」です。この組み合わせにより、直線的なスピード性能が極めて高く、大きな弧を描くゆったりとしたターンを得意とします。
細かい動きや派手なアクションには向きませんが、スタイル重視のサーファーや、波との一体感を味わいたい方には最適です。「クルージング」という言葉が最も似合うのが、このレトロフィッシュです。
操作性を高めた「モダンフィッシュ」
一方、モダンフィッシュは、レトロフィッシュのスピード性能を残しつつ、現代のショートボードのような操作性を加えたハイブリッドなモデルです。レトロタイプに比べて全体的にシャープな形状をしており、レールも薄めにシェイプされています。
ロッカー(反り)も少し強めに入っていることが多く、これにより縦への動きや急激なターンもしやすくなっています。フィン設定もツインだけでなく、クワッド(4枚フィン)やトライ(3枚フィン)を選べるモデルが多く、波のコンディションに合わせて調整が可能です。
「普段はショートボードに乗っているけれど、小波用にフィッシュが欲しい」という方には、違和感なく乗り換えられるモダンフィッシュがおすすめです。パフォーマンス性能が高いため、アグレッシブに波を攻めたい人にも満足できる仕上がりになっています。
自分に合うのはどっち?スタイルの選び方
どちらを選ぶべきかは、あなたがサーフィンに何を求めているかによって決まります。もし、あなたが「ゆったりと波に乗りたい」「クラシックな雰囲気を楽しみたい」「とにかくテイクオフを速くしたい」と考えているなら、迷わずレトロフィッシュを選んでください。
逆に、「ショートボードのようなキレのある動きもしたい」「掘れた波でも攻めたい」「アクションも練習したい」と考えているなら、モダンフィッシュが適しています。最近では「パフォーマンスフィッシュ」と呼ばれる、さらに動きを重視したモデルも登場しています。
見た目の好みも重要な要素です。レトロフィッシュは美しいティントカラー(樹脂着色)や光沢のある仕上げが施されていることが多く、所有する喜びも満たしてくれます。自分の目指すサーフィンスタイルと照らし合わせて、最適なタイプを選んでみましょう。
フィッシュサーフボードの選び方と適切なサイズ

フィッシュボードは、一般的なショートボードとはサイズ選びの基準が全く異なります。「いつものサイズ」で選んでしまうと、大きすぎて動かないボードになってしまう可能性があります。ここでは、失敗しないための具体的なサイズの選び方について解説します。
長さは普段より「2〜4インチ短く」が基本
フィッシュボードを選ぶ際、最も重要なのが長さの選択です。基本的には、普段乗っているショートボードよりも「2〜4インチ(約5〜10cm)短く」選ぶのがセオリーとされています。中には身長よりも低いサイズを選ぶ上級者もいるほどです。
なぜ短くする必要があるのかというと、フィッシュは幅と厚みがあるため、短くても十分な浮力を確保できるからです。むしろ、長くしすぎるとレールの接水面が長くなりすぎてしまい、ターンのコントロールが難しくなってしまいます。
短いボードは回転性が高く、フィッシュ特有のクイックな動きを引き出すことができます。初めてフィッシュを選ぶ場合は、自分の身長と同じくらいか、少し短いくらいを目安に探してみると良いでしょう。
幅と厚みで「ボリューム」を調整する
長さは短くしますが、その分、幅(ワイズ)と厚み(シックネス)はしっかりと確保する必要があります。特に幅は、フィッシュの安定感とスピードの源です。一般的なショートボードよりも2〜3cm程度広いものを選ぶと、フィッシュらしい乗り味を楽しめます。
厚みに関しても、センター部分はしっかりと厚みを持たせつつ、レールにかけてどのように薄くなっているかを確認しましょう。レトロフィッシュならボリューミーな厚みが魅力ですが、モダンフィッシュなら少し薄めの方がコントロールしやすくなります。
最近のサーフボードには「リッター数(L値)」という体積の数値が記載されています。普段のボードよりも少し多め(+2〜5リットル程度)のリッター数を目安にすると、テイクオフの速さと動きの軽快さのバランスが取れたサイズが見つかります。
レールの形状でターン性能が変わる
サイズ選びと同じくらい重要なのが、レール(ボードの縁)の形状です。フィッシュボードのレールは、乗り味に直結する要素の一つです。
「ボキシーレール」と呼ばれる丸くて分厚いレールは、反発力が強く、加速性に優れていますが、脚力がないと板を沈めるのが難しくなります。一方、「テーパーレール」のように薄くシェイプされたレールは、水に食い込ませやすく、繊細なターンが可能になります。
脚力に自信がある方や、スピードを最優先したい方は厚めのレールを。スムーズなターンを楽しみたい方や、脚力に自信のない方は、少し落とした(薄くした)レール形状のものを選ぶと、操作性が格段に向上します。
素材の違い:PUとEPSの特徴
サーフボードには主に「PU(ポリウレタン)」と「EPS(発泡スチロール)」の2種類の素材があります。フィッシュを選ぶ際も、この素材の違いが乗り味に影響します。
PUは昔ながらの素材で、適度な重さと「しなり」があります。水面を抑える効果があるため、風が強い日や面が荒れた日でも安定して走ります。レトロフィッシュの重厚な乗り味を求めるならPUがおすすめです。
メモ:EPSは非常に軽量で、浮力が強いのが特徴です。漕ぎ出しが軽く、小波での反応も抜群です。モダンフィッシュやパフォーマンス系のフィッシュを選ぶ場合、EPSにすることでより軽快なアクションが可能になります。
おすすめのフィン設定とツインフィンの魅力

フィッシュボードの性能を最大限に引き出すためには、フィンの選択が欠かせません。特にフィッシュの代名詞とも言える「ツインフィン」には、形状によって全く異なる乗り味が存在します。ここでは、代表的なフィンの種類と選び方を紹介します。
直進性とドライブ感の「キールフィン」
レトロフィッシュに合わせる最も伝統的なフィンが「キールフィン(Keel Fin)」です。他のフィンに比べてベース(土台)の幅が非常に広く、高さは低めに設計されています。全体的に面積が広いため、直進安定性が非常に高いのが特徴です。
このフィンを装着すると、一度スピードに乗った時の「ドライブ感」が凄まじく、長く伸びるようなターンが可能になります。波のフェイスを大きく使って、優雅にクルージングしたい場合にはキールフィンが最適です。
ウッド素材やグラス素材で作られたキールフィンは見た目も美しく、クラシックなフィッシュボードのデザイン性をさらに引き立ててくれます。
回転性を重視した「アップライトフィン」
「アップライトフィン」とは、キールフィンよりも縦に長く、立った形状をしているツインフィンのことです。ベースの幅は狭くなり、レイク(後方への傾き)も少なめになっています。
この形状の特徴は、反応の良さと回転性です。キールフィンに比べて軽い力でボードを動かすことができるため、モダンフィッシュや、少しアクションを入れたい時に適しています。「ツインフィンはルースすぎて滑りすぎる」と感じる人は、このアップライトタイプを試すと、しっかりとしたホールド感とコントロール性を得られるでしょう。
パフォーマンス重視のサーフィンを目指すなら、迷わずこのタイプを選ぶのが正解です。マーク・リチャーズ(MR)タイプのフィンなどが有名で、多くのサーファーに愛用されています。
ツインとクワッドの使い分け
最近のフィッシュボードには、フィンボックスが4つ付いているモデルも多くあります。これにより、ツイン(2本)だけでなくクワッド(4本)の設定も楽しむことができます。
クワッドフィン設定にすると、ツインフィンのようなスピード感を保ちつつ、テール側のフィンが水を噛んでくれるため、ホールド感が増します。これにより、サイズのある波や、掘れた(急斜面の)波でも安定して走ることができます。
普段はツインフィン特有の開放的な滑りを楽しみ、波のサイズが上がった時や、よりカチッとした乗り味が欲しい時にはクワッドに変更する。このように、1本のボードで2通りの乗り味を楽しめるのも、モダンなフィッシュボードの大きな魅力です。
まとめ:サーフボードのフィッシュで波乗りの楽しさを広げよう
サーフボードのフィッシュについて、その特徴から歴史、選び方、そしてフィンのセッティングまで詳しく解説してきました。フィッシュは単なる「小波用ボード」や「お洒落なボード」という枠を超え、サーフィンの本質的な楽しさである「波に乗るスピード感」や「流れるようなフロー感」を教えてくれる特別な存在です。
ショートボードで伸び悩んでいる方や、もっとリラックスしてサーフィンを楽しみたい方にとって、フィッシュは救世主となる可能性があります。幅広のアウトラインが生む安定感と、フィッシュテールによる加速性は、あなたのサーフィンスタイルに新しい風を吹き込んでくれるはずです。
レトロな乗り味を追求するもよし、モダンな操作性を楽しむもよし。ぜひ自分にぴったりのフィッシュボードを見つけて、海の上を自由に、そして優雅に滑走する喜びを体感してください。次の休日は、新しい相棒と共に海へ向かいましょう。




